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中国コンテンツビジネスで見る「二度目の人生を異世界で」問題 その3

その1では炎上の実態、その2ではアニメ輸出に本腰を入れた日本と中国コンテンツの現状を調べた。その3では、同様の他作品の現状からどうして「二度目の人生を異世界で」が問題になったかを考察する。

 

※目次※

 

スマホ太郎とデスマ次郎の価値

二度目の人生を異世界で」に突っ込む前に、同じような流れですでにアニメ化した作品があるので、それを追ってみる。

 

太郎?次郎?

 昨今作成された俺TUEEEE系アニメ「異世界はスマートフォンとともに。」(以下、太郎)と「デスマーチからはじまる異世界狂想曲」(以下、次郎)の主人公の蔑称である。ネットの陰口は恐ろしいが確かに的を射ていると笑ってしまった。

 名前が示すようにどちらの主人公にもさっぱり特徴がなく、ハンコで押したような顔形と無個性となっている。作りも雑で、話も単調でつまらない。これは原作が悪いというわけではなく、アニメ制作サイドがこういった作品のどうしてヒットしたかという価値と構成を理解していない(おそらく吟味する時間と金がなかった)ため、ぼんやりしたものになったのだろう。

 

作る価値があるのか?

 原作の良し悪しを無視して、とりあえず安くアニメに落としてしまおうという姿勢は視聴側からしたら、時間を盗まれたような気がしてげんなりするが、作る側からするとそれなりの見返りがあるように見える。

 一つは実績である。なにも作っていませんと言うよりも、履歴書の空欄を埋めるにはいい。売り出そうとしているアイドル声優、経験が欲しいアニメーター、アニメ化したというカテゴリーが欲しいパチンコ屋などなど、アニメの良し悪しよりも個別の「レッテル」を考えると欲しい人はたくさんいる。商売で言う「回す」ということである。

 もう一つは作れば実は儲かるのだと思う。DVD、BLディスクの売り上げを見ると、太郎、次郎ともに一巻1500枚前後と言われており、制作側の買い取りを考えると、実売は1000枚もいかないと考えられる。しかし、日本国内でのテレビ放映、インターネット配信料を併せれば、制作に金がかかっていない分、アニメ単体でも差し引きぎりぎり黒になると予想する。

 

 さて、国内でギリギリな売り上げでも、その2中国アニメビジネスの近況で示したように、最近は華僑圏にデカい市場が転がっているので、翻訳して上手くソフトを転がせばかなりの利益が出ることが分かっている。直接、日本の株式会社から売ると目立つので、台湾を中継するのがデフォルトとなっているようだ。

 太郎と次郎について見ると

 

異世界はスマートフォンとともに。

中国語名:带着智慧型手机闯荡异世界

日本版元:ホビージャパン HJノベルス

中国版元:立出版社(台湾)

中国アニメサイト:爱奇艺(iQIYI.COM)

 

デスマーチからはじまる異世界狂想曲
中国語名:爆肝工程师的异世界狂想曲 

日本版元:KADOKAWA

中国版元:台湾角川(台湾)

中国アニメサイト:爱奇艺(iQIYI.COM)

 

どちらも輕小說つまりライトノベル枠のアニメとして、同じように売られている。

また、太郎は「In Another World With My Smartphone」として英語圏に販路を持つなどソフトの多角化をしている。

 

利益が出るのか?

 太郎、次郎は共に東アジア圏全域に販路を持ち、最大20億人の目に触れる可能性を持っているが、日本の肥えた目を持つオタクたち同様に、華人からも「つまらない」とそっぽを向かれたらおしまいである。

 実際、その2なぜ今になって中国が間口を広げたか?で書いたように、中国アニメ制作では粗製乱造しても結局利益が上がらず、多くの資本がアニメから逃げていることが推察される。そんな状況下で太郎と次郎は見てもらえるのだろうか?

小林さんちのメイドラゴン」が7000万再生、映画「君の名は」の大ヒットといっても、太郎と次郎のレベルはだいぶ違うので簡単にはそれに乗っかることはできない。

 そこで作品イメージの近い(主観)ものを探すと、王牌御史绝对领域あたりかなぁと思う。これらの作品を見るとあぁ・・・つまんねぇなぁという程度の出来であり、お世辞に言っても日本のテレビで流しても単品では評価されないだろう。しかし、これが向こうで言う質の高い国産アニメらしいので、それ基準で見ると太郎と次郎でもかなり高品質なアニメーションということになる。

 

 売り方に工夫(テーマ性や政治性の吟味や宣伝方法)は必要だろうが、国産アニメに混ぜれば十分上位に食い込む「名作」になるので、当然売れる可能性は高い。

 

グローバルに考えると太郎も次郎も非常に価値のあるコンテンツである。

 

「アニメ」二度目の人生を異世界で

中国のコンテンツの現状と太郎と次郎の実態を元に、二度目の人生を異世界がなぜつまづいたか考える。

 

想定されたアニメ化ルート

 もし完成していたとしても、日本の市場で見ると、金と時間をかけた高品質なものになる可能性は低かっただろう。かなりの確率で、太郎と次郎に次ぐ、三郎としての地位をいただく可能性があっただろうし、版元も太郎と同じホビージャパンなので、売り方も同じルートになっていたはずだ。

 また、HJ文庫公式Webサイトを見ると三郎には触れず、今の推しは「魔王を倒した俺に待っていたのは世話好きな嫁とのイチャイチャ錬金生活だった」みたいなので(なげーよ)、おそらくこれが四郎ポジションになるのだろう。こういった同じような作品群の一端として、量産される予定だったのが、このアニメ「二度目の人生を異世界で」の立ち位置だったと思う(以下、三郎と呼ぶ)。

 ホビージャパンは角川グループの下位の作品と同等を作れるもしくは生産委託できる(太郎と次郎)ので、日本での集金をある程度捨て、グローバルな価値を見てアニメを量産しようとした可能性も見えてくる。

 

降板した声優陣とその理由

 アニメ化中止の前にいち早く声優陣が降板した。三郎の主人公・功刀蓮弥役の増田俊樹さん、ローナ=シュヴァリエ役の中島愛さん、シオン=ファム=ファタール役の安野希世乃さん、創造主役の山下七海さんが、このアニメのメイン声優であり、理由を説明せず降板した。

 増田氏に関してはbilbibiliで稼いでいる関係上、Twitterでかなりきつめのコメントが寄せられていた(と言っても攻撃的なユニークIDは20~30程度)。

www.bilibili.com

 しかし、同じようにTwitterをやっている安野氏に関して、むしろ冷静になろうというコメントが多かった。また、騒がしいコメントは降板後の6月6日からプッツリなくなったので、炎上というにはほど遠いものと考えられる。

 

 では、なんでこの程度の騒ぎで、彼らが急に逃げたのかを考えると、プチ炎上から彼ら自身の人気を守るためと考えられるが、もっとしっかり見ると、彼らの事務所の予定に原因を見ることもできる。

 

エイベックス : 今年、C-POP事業の子会社を北京に立ち上げ

ビクターミュージックアーツ : 中国音楽市場に参入、拡大を予定

スペースクラフトに関しても声優部が中国、台湾で動こうとしていることが各ブログで見られる。

 

 つまり、各事務所は手持ちのコマを声優というよりも、歌手、アイドルとして中国に展開しようとしていて、その足掛かりにアニメを利用しようとしている向きが強い。

 その2日本側の近況で書いたように、今年日本側から大掛かりな事業展開をアニメを含めた芸能関係でやろうとしているさなか、小さな問題であっても、これらの計画に味噌をつけることができない。これからの「芸能」事務所群全体の利益を考えて、一斉に中国側に土下座したのだろう。

 

www.recordchina.co.jp

 

問題はアニメではない

 しかし、どうして三郎だけが、チョンボしたのだろうか? ざっとみても、実は同じように向こうのネトウヨサイトでワイワイつつかれているアニメはたくさんあって、向こうからの圧力(?)でアニメ化中止まで行ったものはないし、当然声優に対しての突撃もほとんどない。例えば、「gate 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」なんてまぁその界隈では大騒ぎであったが無事放映である。

 また、たとえ声優側が逃げても、アニメを途中まで作ったのならその分、金を使っているので、せめて日本で売って、資金の回収くらいはすべきではないだろうか?

 太郎にしても次郎にしても、こういった俺TUEEEE系は多かれ少なかれ日本万歳色が見え隠れしており、すべて消臭するのは難しい。それにもかかわらず、これらのアニメはすでに中国のメディアに乗っているのである。

 そのため、太郎と次郎にない、三郎の特徴を探してみると、問題の発端となった中国国内のラノベ掲載サイト「轻文」に戻ることになる。

 

 このサイトを見返してみると、その作品群はオリジナルにしろ、2次創作にしろすべて中国人が書いたことになっている(ペンネームなので本当はどうか知らないが)。

 ざっと見た感じ、現在は翻訳ものは全く見当たらない。三郎騒動以前「日本」カテゴリーというものがあったらしいが、どうやらそれも2次創作系がメインだったみたいである(この点は消えた後なので未確認)。

 つまり、このサイトは中国人が作った中国人作家の投稿サイトで、中国人が読むものである。消されたと言うことだが、もしこの中に三郎が混じっていたらものすごく浮くんじゃないだろうか?

 

 サイト上から消えているので推測になるが、三郎の掲載は無断転載か日本側から許可を得た投稿ということになる。

 無断転載の場合、何らかの利益のために投稿するので、中国語翻訳された他作品も上がっているはずだが、太郎も次郎もその他日産ラノベは検索にヒットしなかった。そのため、ここからは三郎のみこのサイトに掲載されていたとして考える。

 三郎は繁体字、つまり台湾用の出版はされているが、本土で使う簡体字での出版物は見つけることができなかったことからも、「誰か」が頑張って翻訳したものをコッソリと投稿していたんじゃないだろうか?

 

検閲をすり抜けた可能性

 ここから推察される可能性はこの投稿はたまたま政府の検閲を意図せずすり抜けて中国本土で作品が掲載されていたということである。

 ややこしいのが、中国における本の出版とテレビの放送とインターネットの配信の検閲はそれぞれ別カテゴリーで、国外からこういったものを持ち込む場合、それぞれに許可を得なければならない。

 インターネットで海外の文章を配信する場合はさらに面倒で、出版物として、配信コンテンツとして両面からチェックを受けるので、実際に中国人が本土のサイトで閲覧するには結構な時間と内容削除がされるはずだし、個人でやるには無理がある。特に書籍という物の扱いは極めて厳しい

 そのため、通常は角川にしても書籍、電子出版物は台湾どまりである。そこを無理くりHJノベルズが通したり、轻文側にその能力があるようにも見えない。

 つまり、そういった検閲を考慮せず、誰かさんがなんとなく投稿したら、すり抜けていた可能性が高い。

 

「アニメーションのみ」のはずなのに、「書籍も入っている」のがとてもまずい。

 

中国のメンツと金儲け

 ということで、この問題は「誰かが」投稿した翻訳小説を発端とした事件だが、これこそがアニメ中止問題の本質なんじゃないだろうか?

 中国検閲側がこれについて宣言してしまうと、ネットでこういった小説はほとんど検閲していないことがバレるし、これ以降莫大にあるこういった小説関係を一々読んでいったり、その背後関係を調べなくてはならない。無能、怠惰だと局内でもメンツ丸つぶれとなる。

 また、せっかく日本側から金儲けの種がまかれようとしているのに、一歩後退してしまうのは「流れを潰す」ということで官僚的にあまりにもまずい。

 

こういったメンツと金儲けの間で起こるのは・・・

 

 内々でこれあかんよ~と中国政府側からお叱りが来たのかもしれない。

(もう動いてるものは見逃すからこれから気を付けてね💛的な)

 

 日本側もひえ~ごめんチャイと謝って中止になったのかもしれない。

 (お口にチャックして新しいアニメ作ろうニッコリ的な)

 

 作品の設定や作者の発言が販売中止理由というのは後付けで、日本人の「ヘイト」が問題ではなく、中国人のインターネットの「管理の失敗」が問題なんではないかと思う。

 

 終わりに

 中国で儲けるのはやっぱり難しい。今回の問題も原作者に一端の問題はあるかもしれないが、トータルではいい迷惑だし、怒りのぶつけようがないだろう。

 

 日本側の「誰か」が作品を投稿したことが原因なら、その「誰か」を探さないといけないが・・・まぁ自分も含めて面倒なので誰もやらないだろう。さらに言えば、検閲問題なんて誰も突っ込まないんじゃないだろうか。

 

 いずれにせよ、日本のコンテンツ産業は怪しげな中国市場に向かう。三郎の「事故死」は無駄にしないでもらいたいと思った。

 

(おしまい)

 

 

 

 

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