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1週間に1記事を目標にして、考えたことや描いた絵について書いてます。

小説「三体」と中国の分断

小説を読もう!ということで、最近のSF小説で評価が高い中国語翻訳の三体についての読書感想文的な記事を書いてみた。

(今週の一枚)ナナチの続き(途中)

 

 最近、移動が多いので動画をよく見るんだけど、いい加減飽きてきたので、小説を読むようになった。そこで今回は読書感想文的に中国の翻訳SF小説「三体」のレビューを書いて、そこから連想される中国のイメージを書いてみようと思う。

 

※ネタバレを多く含みます。ご注意ください。※

 

三体の概要

 題名「三体」は異星人の星にある3つの太陽の三体問題(太陽の動きが予想できない)と物理実験で起こった予測しえない結果を絡めている。意味合いとしては科学的に予想しえない現象とそれを人の知能によって解明しようとする意志の対立になる。そこから予測できない人生と収束しない人間のエゴを示しているのだろう。

 本作では中国の近現代の変化とそれに翻弄される女性を物語の骨子として、オムニバス的に中国の人々、VRゲームのアバター、異星人などといった様々な物語を重ねている。

 そのため、過去や未来、地球や異星、VRゲーム内と各章で色々と話が飛ぶので、時系列を順に書いてわかりやすくしてみる。

 主人公(?)の女性研究者を中心に時系列を書くと、紅衛兵による大学教授(父)の虐殺、その子である女性研究者の不遇な研究生活、偶然得た異星人とのコンタクト、野望のための夫の殺害、石油王との出会い、カルト的な異星人信奉会の設立、国内政治変化による名誉の回復、異星人による地球人アホ化計画の発動、混乱する世界各国の研究者、政府によるカルトの殲滅、異星人の真実と絶望、小さな希望…となる。

 作品内ではこの時系列をばらして、一見関係ないような事件やおかしな現象を並べて、少しずつ核心に迫ってゆくというものになる。

 

 文章としては3割くらいを物理現象や数学的解釈の解説が占めており、かなり人を選ぶ内容になっている。また、中国発の作品ということで歴史的・文化的に中国国内の状況をある程度知っていることが前提で書かれている。

 そのため、普通のSF小説とはちょっと毛色の違う作品となっている。

 

三体の感想

 いくつかのレビューサイトに書いてあるような絶賛されるような話ではないと感じた。一昔前のなんとなく売れないSF小説よりは面白いけど、早川書房・早川文庫や創元SF文庫ではもっと面白い小説がたくさんある。これを読むくらいならアシモフの短編を読んだ方がいいなぁと感じた。純粋に作品を読むと随所に既視感があったからだ。

 一番問題なのはかなり長い作品なのにオムニバスのような話の塊なので、物語がまとまっていないと感じた点である。各章では短編小説のような趣を持っていて好感が持てる。しかし、それらのお話はそれぞれどこかで聞いたようなネタがたくさんある。パクリ(盗作)…とまでは言わないが、オマージュ(敬意)でもない。元ネタをわからないようにもう少しこねたほうがいいのではないかと思った。

 例えば、異星人とのやり取りは基本的に映画コンタクトを丸々写して、中国流にアレンジしている。しかし、アメリカ(カナダ?)と違い、当時の中国の宇宙物理学は未開で当然高出力の電波アンテナはないし安定的な電力供給もできなかった。根元がすでに完全に妄想なのだ。だから話に多くの矛盾を抱えてしまう。

 また、三体問題を中心として物理学・数学的な話が長々と綴られているけれど、理論的数学解と実験による実測結果、つまり、研究のwetとdryをごちゃごちゃに語られていることが多々あった。そのため、読んでいて何を言いたいのか混乱することがよくあった。サイエンスフィクションというのは、いかにも本当っぽく語って実は適当なインチキ話というのが面白いんだけど、この作品では前提となる科学がおかしい(基礎理論の解説が長い割に各論が破綻している)ので、虚構に説得力がなかった。

 

 一方で、独特だなぁと思ったのは、すべてのキャラクターが昔話を語るような喋りをして会話・対話をしない点である。その多くがひとり語りで構成され、その語りにサブキャラが補足を入れるようになっている。孔子先生と生徒とか天帝様と下僕なんて感じの漢文のようになっている。なんとなく大学の一般教養の講義を聞いているような気分にさせられた。

 

 評価を言えば、「とにかく人を選ぶから一般評価は厳しい」となる。

 

興味深い点

 さて、総評としてはあまり芳しくないこの作品だけど、見方を変えて読むと面白いことが見えてくる。それは愚者に対する冷たい差別意識だ。学のない紅衛兵、研究を理解できない政治将校、自然保護を理解できない村人、未来を見通せない民衆などがいる。これと対比して、学のある大学教授の父、一人研究を深化させる女研究者、黙々と植樹をする白人、未来を見通すカルト集団となる。何か事あるごとにアホを描き、金持ちや学のある「私たち」を持ち上げる書き方をしている。

 また、異星人も私たちを超える人という扱いだが、よくあるSFのように未知との遭遇とか未来への新しい可能性については触れない。その目を愚かな人類(私たち除く)を罰したり修正する存在として位置づけられている。

 表面的に物理だ地球外生命体だと言っているが、実態は自分たちは至高でそれを認めないその他一般人を強く見下している文章が長々と続く。

 これがすごく独特で、この作品は内容を理解したり物語を楽しむために作品が作られていないと感じる。例えば、とてもわかりづらい物理的解釈を長々と書くのも、こんな難しい内容が理解できる私って素敵♡とするためのものになっている。

 つまり、「このお話を読むような人はお金持ちで賢いです」と読者を設定して(実際にどうかは別)、物語の内容を楽しむのではなく、これを読む行為そのものがステータスだとしているのだ。

 

中国の分断

 上で書いたような冷たい差別意識というのは、実際に中国人を見ていても感じることがある。例えば、都市戸籍の人は出稼ぎに来る農村戸籍の人を本当に見下している。一方で、農村戸籍の人は都市戸籍の人を働かない豚だと馬鹿にしている。この変な対立は各所であって、人が集まると団結するのではなく、適当な理由を作って2つのグループでいつも見下しあうのだ。

 日本のようになんとなく「同じ日本人」というくくりで現代中国人はまとまらない。中国人民を大きな一つのものとして見るのではなく、自分の属性が決まってしまうとその属性以外の人を「別世界の中国人」としてお互い遠ざけるのである。かつては「家」というのがとても強くて今でも家長のイメージはとても強いが、それ以上に広がる概念がない。

 そのため、弱点になる政治的な話題は絶対しないし、属性を超える中国人とはお互い出来るだけ会話をしない。

 日本では超個人主義が浸透して、その反動でSNSでは弱いつながりのグループが無数にできている。これがぼんやりとした日本人のイメージで繋がっている。しかし、中国では属性主義が強くなったため、ネットでは一つにならないといけないという一種の焦りみたいなものがあり、その雰囲気へのアンチテーゼが本作になっているのではないかなぁなんて感じた。

 本記事の表題に「分断」と書いたが、日本やアメリカのように大きな民族や国家的イメージを中国人にはあまり感じない。いつも分断しているのだ。そして、「一つの中国」というスローガンが示すように一体化を促す試みを近年ずっと中国政府や理想主義的な人達はやってきた。

 しかし、今作「三体」では異星人が来たとしてもそういった民族意識地球市民としての一体感を見せることなく、選ばれた「賢くてお金持ちの私たち」が世界を左右しようという優生学的思想が強く出ていて、あぁこいつら一生バラバラなんだなぁなんて思った。

 元ネタの映画コンタクトとは全く逆の考え方なのだ。ところ変われば品変わるというところだろう。

 

終わりに

 読んでいてちょっときつかったけど、未知を知るにはいい機会だったのかもしれない。

 まぁもう一度読む気はしないけどね"(-""-)"

 

 

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