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1週間に1記事を目標にして、考えたことや描いた絵について書いてます。

ノーベル賞に対する強い違和感

先日、元日本国籍の眞鍋淑郎氏がノーベル物理学賞を受賞した。それ自体は素晴らしいことだがものすごい違和感を持った。その原因を探ってみる。

 

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(今週の一枚)秋の遊覧船巡り(pixiv

 

 

 今年もノーベル賞発表の季節になってニュースでワイワイ言っているが、今年は眞鍋淑郎という気象学の先生が物理学賞を受賞した。これ自体素晴らしいことでおめでとうございますと心から言いたいが、その報道や受賞経緯、それにまつわる言説を見聞きするともやっとしたので、その理由を書いてみようと思う。

元日本人は日本人なのか

 今回テレビ・新聞、ネットニュースなんかをザッピングしていると、すごく変な気持ちになるのは眞鍋淑郎氏はアメリカ人であることをちゃんと報道しない点である。

 経歴を拝見すると、眞鍋氏は東京大学大学院でPh.D.を授与後に渡米して移民し、アメリカ人として研究を行い、アメリカの大学や研究所で業績を積み、地球科学の権威となり、賞を戴いた人である。

www.nobelprize.org

 生まれと育ちが日本というだけで、研究そのものはほぼアメリカであり、向こうの報道でも「アメリカ人」が受賞したと報道されている。

scholar.princeton.edu

 しかし、日本の報道ではあたかも「日本人」が受賞した。めでたいめでたいなんて言っているが、明らかに誤報である。おそらく、名前が日本人なので何にも考えずに、慌てて記事にしたためにこんなめちゃくちゃなことになったんだろう。研究内容やその価値に全く興味がないことが分かる。数日中にコッソリ訂正したり、なかったことにしてあっさり流すのだろうが、なんというか間抜けな感じがする。また、氏を利用して取材もせず日本否定をするなど滑稽の極みだなぁと思った。

www.asahi.com

 もちろん同郷の士が外国で活躍し、それを喜んだり誇るのは素晴らしいことだが、情報をごまかして国威発揚/民族否定のようなことをするのは本質的に日本の報道の質が極めて悪いと分かる。

 

気象学が物理学なのか

 ノーベル賞は非常に政治的な側面を持っている。特に有名なのは平和賞であり、ヨーロッパ全体の戦略に合致する「平和の使者」(ヨーロッパ各国の都合よく働く人)を指名したり、経済学賞ではいくつかの学閥から選ぶかなりインナーサークル的ノリの賞である。

 そんな中で、政治とはある程度距離をとっていたはずの科学系の賞も近年各国のパワーバランスの変化に飲まれて、なんでこの人が?みたいな人が受賞するようになった。勘違いしてはいけないのは受賞した人達は立派な研究や業績を残した人であるが、おかしいのはそれ以上の結果を残した人がたくさんいて評価されていないという点である。

 

 今回の眞鍋氏もカテゴリーは気象学(MeteorologyやAtmospheric chemistry)であり、物理学とはちょっと違う。そのため、本来であれば「物理学」という枠ではなく、別の領域の人なのだが、何故か物理学賞を受賞してしまった

www.meti.go.jp

 また、ノーベル財団はこういった枠に入らない人達に対しても別の賞(など)を用意して栄誉と賞金を与えており、地球科学の分野ではWalter Heinrich Munk氏やPeter Molnar氏がクラフォード賞を受賞している。同じ分野の眞鍋氏も2018年に賞を得ているので、今回、世にも不思議なダブル受賞ということになった。

 この点から、非常に疑問が残る点がある。一回ノーベル財団は眞鍋氏の研究は地球科学であると言っているのに、今回は物理学であると言っている。あなたはサッカー選手ですから賞を上げますと言って、次にあなたは野球選手ですから賞を上げますというくらいの差があるので、明らかに異常なことである。

www.c2es.org

 素晴らしい業績なのだろうが、異分野の人を無理やり受賞させるということは、本来物理学賞をもらうべき人にその賞を与えないということなので、ルールを破った無茶苦茶なことであるし賞の価値を毀損する行為なんじゃないかと思った。

 

科学研究費は国営にすべきなのか

 ノーベル賞を取った人は立派だが、日本ではそれを支える基礎研究がドンドンおろそかになり、予算が削られ日本の未来が心配であるなんて言説がある。

 ノーベル賞受賞発表と同時にこういった言説は色々なところから噴き出すが、かつて同じ賞をとった人、すごい業績を持った人を利用して国はもっと研究にお金を出さないといけないという政治ショーが行われる一環であろう。

www.asahi.com

 実際に国費で研究費が不足したり、研究が停滞しているかどうかは分野ごとで違う。東大・京大およびその他国立大学は比較的潤沢な資金を持つがその他大学はヒーヒー言っているという話をよく聞く。これは海外でも同じような特定大学偏重傾向を持っているので比較にならないが、全体として研究費が多いかどうか国別で見ると、日本は世界で3番目に研究費が多い国になっている。

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総務省統計局 世界の統計2021, P143より)

  

 研究費世界3位につける日本であるが、その多く(約8割)を企業が占めており、政府が占める割合が先進国にしてはかなり小さい。企業は当然営利で研究をするので金が儲からない研究には金を出さないし、ほぼ外れしかない基礎研究なんぞに手を出さない。そのため、実学系や応用系の技術研究が主体を占め「技術立国」(基礎の学問は輸入する)なんて自称する事態になったのだろう。

 また、こういった企業研究では方向性が限定されているので、Ph.D.を持った人員はあまり必要ない。そのため、国が進める博士増員とは相反する事態となり、大量の博士持ちの職無しが発生した。

 では、単純に大学への基礎研究費を倍増させればうまくいくかといわれればそうではない。日本の大学の研究はあくまで「遊び」の延長領域であり、しっかりと研究者になる教育が確立されていない。また、一時期急激に生徒数を増やしたため脆弱な指導体制も完全に崩壊したと言われている。そして、そんな研究者は無休・長時間労働が基本である。その中で国際的に評価される成果を出そうとすると、パワハラや捏造が横行してしまうのが日本での研究の通例となっている。例えば、ノーベル賞を受賞した野依良治氏は伝説となるくらい悪辣な研究者だし、山中伸弥氏は政治活動ばっかりで資金が潤沢な割に成果がほとんど出ていない

 

www.mext.go.jp

 結局のところ、基礎研究をできるだけの科学的素地がある指導的研究者がほどんどいないことが原因(つまり大学院が大学院として機能していない)なんだけど、能力のある人を海外から輸入しようとすると何故か研究費がおりなかったり、人間関係や研究室の暗さが原因でみんな逃げてしまう。

newswitch.jp

 逆に日本からひも付きで学生を海外の大学院に派遣しても言葉や文化の問題でほとんどうまくいかない。学生にも研究指導を受けられるだけの学問的的素養がないという実情がある。

business.nikkei.com

 今回ノーベル賞を受賞した眞鍋氏も指導的立場で一時期日本にやってきたが、なんだかんだでアメリカに帰ってしまった。このことからも政府ー大学ー研究者というラインで研究資金のやり取りや研究評価には相当問題があることが分かる。

 つまり、本当に基礎研究を勃興したいなら、大学での指導体制の見直しと透明な評価と政治と無関係な状態の資金が必要となるが、今の大学機構にはそれがほぼ不可能な状態なので、いくら研究費を増やしてもいい基礎研究なんてほどんど出来ないと分かるだろう。

 

終わりに

 日本人って権威にすごく弱いなぁと思うけど、権威やレッテルを除いて、本当に価値のある研究って何なんだろうなぁなんて感じた。

 楽しく研究出来て、すごい成果が出るのが一番だけど、そう言うのは稀なんだろうな( ^ω^)・・・

 

 

 

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