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1週間に1記事を目標にして、考えたことや描いた絵について書いてます。

「100日後に死ぬワニ」がなんでコンテンツとして死にかけたか

流星のごとく現れた作品が「広告代理店ステマ」ということでボコボコに批判されているが、なんでやねん!と思ったので調べて考えてみた。

 

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(今週の一枚)こちらで新車(ゴーレム)の試乗ができます(pixiv

 

自分の立ち位置

 「100日後に死ぬワニ」と言う作品はTwitter上で連載され、大ヒット→実は商業化前提→広告代理店によって大キャンペーン→大炎上という稀に見るおバカな流れとなった。

 この作品が連載していた(連載開始は2019年12月12日)ことは知っていたが、炎上前の12月下旬に一旦概要を調べて、「ふ~ん」と思った程度だった。

 そのため、大好き/大嫌いと言った作品に対する強い感情はないし、広告代理店・電通が悪の秘密結社だ!的なルサンチマンも持たない。

 純粋に事態に興味を持った感じの記事になります。

 

作品の価値

 この作品「100日後に死ぬワニ」は動物擬人化キャラクターを使って淡々と日々の様子を見せ、いったい100日後にどうしてワニさんは死んでしまうか?というゴールを決めた作りの漫画である。100日後に向け1ページ漫画が毎日更新され、各人が死について考えたり、ワニさんに思いを馳せたり、それを元にワイワイとみんなで楽しむために作られたちょっと面白いネットの企画だと思う。

 以前、ポプテピピックの記事でも書いたが、ネット・SNSでのヒットの大前提となるのは作品の完成度ではなく、消費財としての拡散性であり、ステマで煽ったとしても如何にそれを話の種にし続けられるかが重要である。それを継続的に提供できた点において、この作品は新しい時代の新しい流れに乗った優れた作品だと思う。新聞の4コマ漫画ではきっとヒットしなかったのだろう。

nipplelf.hatenablog.jp

 ただ、正直言って、このショート漫画を単純に漫画として見ると、大騒ぎする割には面白くないポプテピピックと異なり、この作品は深みや新奇性をほぼすべて読み手にぶん投げているので、死についてすでに考えが決まっている人や平易なキャラに感情移入できない人が見ると作品として成り立たない。また、ネットでお話をしたり、考察にリソースを割く時間がない自分には不得手な作品だから印象がなかったのかもしれない。

 どちらかと言えば、同作者様がリードカフェで連載されている「SUPERどうぶつーズ」の方が断然面白いと思う。ポップアート風のヘンテコな動物キャラ達が生活への不満や現代社会への皮肉を持ち、物語の上で日常的な物事に対する狂気が見え隠れしている。作者の個性や強いメッセージ性があり、読んでいて引き込まれるものがあった。

leedcafe.com 

感動性の担保

 このワニをパッと見た時、自分は24時間TVの亜種だなぁと直感した。すでに「死」と言う方向性が決定している中で、あなたは何を思いますか?と問いかけているテーマは末期がん患者とその家族の闘病であったり、健常者と障碍者との関りを想起させる点があり、知らずに死ぬワニさんと死ぬことを知っている私の関係が心をざわざわとさせるのだろう。

 こういった所謂「お気持ち作品」群はステラ・ジェーン・ヤング女氏によって「感動ポルノ」というありがたくないお名前をいただいて、見下した視線が不愉快だという一定のコンセンサスを得ている。

www.ted.com

 TEDにこの話題が出た際には大きな話題となったし、普通に生きていて「あなたが可哀そうでちゅねぇ」なんて言われたら、障害の有無などにかかわらず誰だって不愉快だろう。相手の立場に立ってみれば当たり前のことであり、障碍者が本当の平等を唱えた点で大きい。

 その点で、ワニさんは人間ではなく悲劇と言うアイコンであり、我々はあくまで違う世界の傍観者で動物村の住人ではない。また動物村にはストーリーはないので、ただ死と言う事実を抽出できてとてもイイ「お気持ち漫画」を作り出せたと思う。

 死について、我々日本人の多くが他の国の人よりも相対的に触れる機会が少なく、それが意味するものが強すぎるため、心理的扱いが極めて難しい。そこで、こうやってブラートで包んで初めて死を考えたり実感できる(SNSで話し合える)というのはこの漫画の優れた点なのだろう。

 しかし、こうやって優しくテーマを包んでいたにもかかわらず、100日後ワニが死んでから「は~いワニさん天国で楽しんでますwww」とコラボ企画をぶっこんで来たのは作者の狂気なのか、広告代理店がどうしようもないあほだったのか知らないが、100日間担保していたものを全部破壊したという意味ですごいと思った。

collabo-cafe.com

 好意的に見ると、こういったSNSコンテンツは腐る度合いが著しく早いため、マネタイズを焦ったのだろう。漫画・アニメであれば連載・放送終了後に広告を打たなければ1週間持たず誰も話題に上げなくなるし、ニュースであれば24時間持たない。

  権利者の立場とすれば、いつ消えるかわからない話題性を出来るだけ早くつかんで水平的にメディア展開したいのはわかる。しかし、結果だけ見ると、作品が担保した死との向き合いとその余韻を公式広告がすべて破壊した点はイカレているとしか言いようがない。

 

広告代理店と言う前提

 ワニがビジネス展開を前提としていたことが知れると、Twitterが荒れた。この作品を楽しんでいた人たちを見ると、「広告代理店に騙された」と言う人達がたくさんいる。まぁ、なんと言うか…、ナイーブだなぁと思った。

 多かれ少なかれ、我々の手元にある多くの商品は広告されて良さそうに見せかけられて販売されており、その情報を元に我々は物を買う。

matcher.jp

 もちろん気持ちよく買い物をするために、我々を不愉快にさせるものは広告として下の下であるし、そういった情報に感情を操られることもある。

 アニメを例として挙げると、けものフレンズは「コンテンツとしてゲームが終了するがアニメで復活した」という物語があり、5ch経由でニコニコ動画で爆発したというSNSでの噂がある。そして、その物語や新奇性に多くの人が愛着を持った。しかし、実際はアニメ開始初期の5chにその足跡はなく突如ニコニコ動画で大量のコメント攻勢があり、段階を踏んで計画的にSNSへ拡散されていたし、各種コラボ企画はアニメ化の早い段階で存在していた。少なくともアニメ化時点で広告代理店や「煽り屋」がついてPRと商品開発をしたのだろう。けもフレ2は作品自体クソだったが、それを除いても代理店が変わりコントロールに失敗して炎上したと見ることができる。

dic.nicovideo.jp

 また、マルチメディア化する映像作品を見ても、いい作品をしっかりと金をかけて商品化し、代理店が適切に宣伝することで利益を出していると見ることができる。しかし、こういった一連のプロジェクトを一個人や一社で担う(ハウスエージェント)ことはリソース上、極端な大企業でないとできない。

 つまり、ゲームであれ漫画であれアニメであれ、物販やマルチメディアに展開する創作物のほぼすべては代理店のおかげで利益を出しており、そのノウハウがないと金儲けができないというのが日本のビジネスの現状なんだろう。

www.capcom.co.jp 

広告とワニと商品化

 残念ながら、芸術作品を作ったとしても見る人がいなければ感動も金も生まれない。有効な「お知らせ」は必然だろう。しかし、そうだとしても、ワニの場合おかしな点があって、規模が大きすぎるのである。商品展開(書籍化映画化MVなど)や各企業とのコラボレーション(楽天セブンイレブンタワーレコード他映画など)などほぼすべてに突っ込んだ広告案件があり、これを依頼すると短時間の発注で億単位の依頼料金がかかる。1零細企業の漫画家がここまでビックプロジェクトを差配するのは考えられないし、個人のコミュ力で出来るのなら作者様は漫画家なんてやらないだろう。

 つまり、どの時点かはわからないが、このプロフェクトの主は電通(プロデューサー)であり、従がワニ作者様になったとわかる。 

 問題となってくるのは、どのくらい代理店が絡んだのかではなく、なぜこんな小さな1コンテンツに馬鹿みたいな大金を突っ込んだかである。

 

そこで傍証を挙げてゆく

 

 ワニが商標登録したのは1月16日であり、連載開始から1か月ほどたっていること。

www.j-platpat.inpit.go.jp

 ここ数年、電通がネット関連事業で苦戦して、オーガニック成長率が伸び悩んでおり(自己出資のコンテンツの不作)、常に使いやすいコンテンツを探していたこと(IR短信と説明資料より)。

www.group.dentsu.com

 ワニの商標登録が1月だったのに、時期的に3か月以上(新型コロナの中で検討→制作→発注)かかるはずの各種グッツが3月時点で物理的にそろえられていたこと。

vvstore.jp

 3月以降、SNSでスパムに近い同内容のツイートが多数の業者アカウントからほぼ同時刻に投下され、各検索を汚染したこと

togetter.com

 ワニのRTやいいねなどの評価に空アカウントから大量のチェックが行われたり、ステマ依頼が大量に存在すること

www.lancers.jp

 などがあり、傍証を積み上げると当初から作者サイドは小さくともマネタイズを前提として個人で活動をしていたが、バズった1月以降電通の利益化の流れにはめ込まれてオーガニック収益化の表看板になったと予想できる。

 特に3月以降のやり口はめちゃくちゃで、アナ雪2であったような「ある程度ばれてもいいや」と言った感じのステマを行い、関係者が利益優先で物販や広告の各種業者を金でひっぱたいている様子が分かる。そう言う意味では作者も被害者である可能性が高いと思う。

 

まとめ

 調べてみると、「100日後に死ぬワニ」がコンテンツとして優等かどうかというより、広告代理店のSNSに対する雑な扱いや収益に関する焦りを強く感じた。作者側もワニ以前から積極的に個展を開いて頑張ったり、創作者として素晴らしい個性を持っているのに、途中からやってきた銭ゲバに綺麗に利用されている。

 うまく宣伝や広告を打つことができれば少なくともお気持ちアイコンとして成り立っただろうビジネスなのに、特に3月以降に無理なキャンペーンを張ったせいでコノザマになったのだろう。

 100日目を待つまでもなく、約束された失敗だったのかもしれない。

 

終わりに

 ステマを含めネットを使った商売は難しいなぁと思う。でも、もっと自分の作品の質に自信を持って焦らず慎重に舵取りしてもよかったんじゃないだろうか。

 結果論かもしれないが、勿体ない。…そんな気がした(;´・ω・)

 

 

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