nipplelfsblog

nipplelf’s blog

1週間に1記事を目標にして、考えたことや描いた絵について書いてます。

岐路に立つiPS細胞研究 その1

先週は時間がちょっとあったので、時事ネタにもチャレンジ!

 研究不正追及のニュースを見て「?」と思って、ちょっと興味が出てきたので、素人なりに調べてみたこと、そこから感じたことを書いてみようと思います。

 

 ネット記事のヘッドラインを覗くと、山中伸弥ノーベル賞色々教授が頭を下げている写真が目に映った。一体どうしたのであろうか?と記事を見ると、彼が所長をする研究所で若手研究者が論文不正をしたようである。これを見ているとずっこい奴がいるなぁと思いながら、最低限の知識もなく報道している気がしたので、自分なりに要点と問題をまとめてみた。

 ※目次※

 

そもそも論文って何?

 読んで字のごとく、自分の「論」を文章にすることである。広い意味で言えば、週刊○○でインチキ評論家が文章を発表することも、同人誌でアニメの美しい寸評を書くことも立派な論文といえる。

 ただ、世間の「論文」のイメージは偉い学者さんがお金や時間をかけて、頭のいい難しいことを書いているものだという認識なので、その意味で研究論文に注目してみる。

 研究論文の基本構成は、要約文、導入文、実験方法、調べた結果、考察、参照文献紹介となる。自分の見つけたこと、考えたことを世界の誰かの考えたことと併せて、色々論じているものである。

 論文の多くはその分野の専門雑誌に寄稿される。分野によるが、研究者によって投稿されてから、すぐにその雑誌に載るのではなく、編集側の文章チェックや別の研究者の確認作業「査読」があり、その文章が表に出るまで数週間、遅い場合では10年もかかることもある(査読のないものも多いが、評価は低い)。この査読によってその専門雑誌の価値が決まり、新しい考えや実験の方法がその分野に開陳され、その論文を基にしたさらに新しい議論が生まれてゆくというシステムの一つのパーツが論文といえる。

 一本の論文の権利はそれに関わる人が多いほど複雑になるが、論文著者で大切になるのは最初と最後に名前が載った人で、一番の権利者は最後に乗った人になる。例えば、著者欄に「田中、佐藤、鈴木、近藤、石井」と書かれれば、「田中」が中心となって研究をして、その監修と責任は「石井」が持ち、その栄誉の大半は「石井」が持っていくことになる。山中氏の場合も、この最後に乗った責任者で、実際に実験をやった人は別ということになる。

 こういった専門雑誌にはそれに関係する学会があり、大抵その学会員がその雑誌に投稿することになるので、ある程度はその分野に知識がないと雑誌を読んでもちんぷんかんぷんになる。そうすると雑誌自体の売り上げや査読に関しても身内で回すことになるので、基本的にはある学会の専門雑誌はその関係者しか買わず、その情報の価値や真偽についても内側のルールで決まっているといっていい。こういう論文とその雑誌は大半の規模は小さく、互助によって支えられている。

 しかし、いくつかの分野ではそれが大きく異なり、関わる人数が多く、また動く金の額も大規模になることがある。例えば、今回のiPS細胞関係の分子細胞生物学、再生医療なんかは実際の人の健康にかかわる分野になるので、最も大きい分野であるのだろう。そのため、多数の雑誌や多くの論文が日々書かれている。

 

今回の論文不正

www.ncbi.nlm.nih.gov

 この論文では薬理学、分子細胞生物学、幹細胞、再生医療辺りが研究テーマとなり、実験内容は細胞を培養して、薬をかけて細胞の中の分子が増えるかを調べている。また、薬をかけて細胞を通り抜けるかを調べたというオーソドックスな細胞(iPS由来)を用いた薬理学実験であった。

 分子の量であれ、細胞の透過であれ、とても小さな変化であるので、専門の機械や器具が必要となる。しかし、背景となる知識を除けば、実験の理屈自体はとても簡単であり、「小さなものが変化するかどうか」である。さて、論文でどうやったら、この小さな細胞の小さな動きや分子の増減をごまかしたのであろうか?

 いくつかの解説があると思うが、今回の論文内容と不正については京都大学iPS細胞研究所が公開したこちら(PDF注意)を見るのが一番適切だと思う。手口としては、手の込んだ器具をこっそり改造したり、細胞を変化させて実測値を変えたというわけではない。実に簡単に、雑にやらかしていて、機械で読み込んだExcelデータの値を自分のパソコンで書き換えただけである。そして、調べてみたらほとんどのデータがインチキだったということである。

 

どうしてインチキが見つかったか?

 この論文には11人の著者がおり、京都大学の4研究室(名義上別とした)と早稲田大学の1研究室が関わっている。多くは機械や試薬を貸したり、研究室間の連携があっただけの名義上の著者であろうし、主に実験したのは最初に名前の出たY氏(一応伏せる)だろうが、これだけいてデータ結果改ざんに気づかないとはなんともお粗末なチェック体制である。

 まぁとにかく気づかないまま雑誌に投稿して査読を受けたのだろうが、そのままアクセプトされている。この査読者もまたお粗末であるが、雑誌に発表された。

 この論文の発表後に全く別の研究組織からの問い合わせがあり、同じように実験したところ、まったくデータと違う結果が出た…というところで、初めておかしいとなったようである。

 つまり、都合何十人も関わって、その眼を素通りして、たまたまこの論文に興味を持った人に暴かれたということになる。もしも、彼、もしくは彼らが気づかなかったら、何十年も論文はそのままだったのだろう。 

 

この論文ねつ造から見える問題

  誰しも魔がさすことはあるだろう。Y氏の論文の場合は、上から下まで全部ウソだったので、どうしようもないが、ここまで行くのにどうにかならなかったのだろうか? この不正にはいくつかの問題点が存在する。1つはデータを書き換えたこと、1つは存在しないデータをでっち上げたこと、さらにそれを誰も気づかないことになる。

 京大側の会見でもそれについて云々されていたが、いくら事前に調べたりしても、良心に依拠しているので、こういった事は常に起こるだろう。機械のデータを調べます!といっても、その機械のデータを書き換えればわからないし、ノートを調べます!といっても、ノートにウソを書いていればしょうがない。

 つまり、この問題の根本はデータねつ造ではなく、ねつ造したデータを見ても専門家でさえよくわからない、と言ったその分野自体がひどくあいまいな論拠に立って研究をしていることだと思う。

 

Y氏の経歴から見るこれから

  今の時代便利なもので、国から金をもらっていれば、研究者の足跡はネットで容易に調べることができる。研究費からKAKEN、研究論文からPubmed、研究者一覧から日本の研究者で大まかなことはわかってしまう。

 若手研究者Y氏の場合、滋賀医科大学→京大再生研→NIA(アメリカNIHの一部署、すごいとこ)→京大iPS研 と経歴は華々しく、著者論文も29本(内、第一著者13本)と文句のつけようがない。

 これを見ると、結果を急ぐあまり、強迫概念で魔が差したのかもしれないし、それを利用した人達がたくさんいて、薄々知りつつ見逃されていたのかもしれない。いずれにしても、これら29本の論文はその研究結果から疑いの目を向けられ、何らかの調査を受ける可能性があり、彼がその都度所属した研究機関が疑いの目を向けられるのだろう。

 以前の小保方問題ではその論文にかかわったCDBHMSなどがターゲットになった。ただ、はたから見れば、その件は、変な女に馬鹿男が騙されて、引っ込みがつかなくなってねつ造したという物で半ば面白話だったが、今回の論文ねつ造はしっかりした経歴と信用がある研究者が全編にわかってウソをついたというかなりヤバい件だったので、問題の根が深く、研究コミュニティで経歴から手繰ってあら捜しをされるような気がする。この点は、外野がどうのこうのではなく、学会内部でどう落とし前を付けるかが重要になるだろう。

 

強く感じた違和感

 今回の件で一番変だと思ったのは、頭を下げた山中氏の名前が研究論文に載っていないことである。

 「そもそも論文って何?」の項目で書いたように、論文とは最終著者が栄誉と責任を持つ。だから、もしインチキをしたならば、少なくとも責任は最終著者であり、研究所所長の山中氏が何かをもにょもにょする必要はない。

 もし、山中氏の名前が論文に記載されていれば、テレビの有名人ということもあり、何らかのコメントも必要だが、実際はむしろ不正を責める側である。また、論文不正を強く調べるならば、外部に委託するべきであって、同じ研究所員が関わるべきではないし、責任があやふやになる。

 つまり、本来、山中氏は報告を受ける外野なのに、なぜか問題の中心にいる。これは明らかに政治的なショーであって、非常に違和感があるというのが自分の感想となる。もちろん、マスコミのアホな煽りもあるのだろうが、ちょっと異常であると思った。

 このゴメンナサイショーは京大病院、いくつかの付属研究所間での綱引きや資金や権力争いの駆け引きにも見えるし、ただ単に彼が目立ちたがりだけなのかもしれないが、そんなことばかりしてて本当に研究は進むのであろうか?

 iPS細胞研究はノーベル賞から研究所設立で多くの資金と人を得たが、今回の政治ごっこはイマイチ成果のない研究の一つの岐路ではないのかな?と調べていて思った。

(その2に続く)

 

 

 ☆エロ同人CG販売中

 

COPYRIGHT Nipplelf ALL RIGHTS RESERVED.