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1週間に1記事を目標にして、考えたことや描いた絵について書いてます。

AIは美空ひばりの夢を見るのか

最近、故人をCG化するのが流行っている。美空ひばり再現プロジェクトにも賛否があるが、自分なりに調べたこと・考えたことを書いておこうと思う。

 

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(今週の一枚)歌や姿よりもその思いこそ(pixiv

 

NHK紅白歌合戦で話題となったAI美空ひばり(以下、AIM。世間で賛否両論みたいな切り口があるが、美空ひばりファンにそれとなく意見を聞くと否定的なものが多かった。お正月から40人くらいに聞いたんだけど、その多くが「なんか違う」「よくわからない」「怖い」と言った否定的なものだった。

 彼女に強い思い入れがない自分としてはまぁ…面白いかな?と思っていたのだが、どうして受けが悪かったのか考えてみた。

 

 

美空ひばりと言う偶像とビジネス

 ファンが目を輝かせて彼女を語る時、お母さんとの二人三脚であるとか、辛い人生と成功であるとか、人生劇のストーリーが常に歌とセットで存在する。おばあさん達は当時の辛かったこと、楽しかったことやその気持ちを歌詞や美空ストーリーに併せて思い出し、彼女の美声を心地よく聞くようである。

 歌に載せて自分の記憶と感情を思い起こさせるという歌謡スタイルは近年主流のその瞬間ごとの興奮を如何に盛り上げるかと言ったダンスミュージック(所謂、シーン)と対局なので、一周して新鮮に映る。

 このビジネススタイルにおいて彼女の立ち位置をまず考える。

 美空ひばりさんは本名を加藤和枝さんと言い、子役として戦前から活躍された方で、戦後の荒廃、日本の高度経済成長と共にそのスター性や歌唱力を羽ばたかせた日本の歌謡界のスターと言える。

www.misorahibari.com

 どうも彼女自身(加藤氏)と美空ひばりを分けて活動をすることが多くあったようで、厳密な意味で考えると、加藤和枝と美空ひばりは別人格と言うくくりで考えたほうがいいのではないかと思う。例えば、歌手のひばりと作詞家の和枝スターの美空と妻の加藤(入籍はしていない)と言った感じで、公私ともに年を経るごとにその2面性を際立たせてきた。

 このみんなに愛され感動を与える歌姫とやんちゃで周囲を困惑させる女は興行を維持すると言う意味で非常に大切である。このビジネスにおいて、加藤氏とは明らかに別人格の「我々が見たい女性像」を作りこむことでスター性を上手く作り出すことになり、たくさんの人を魅了することができる。しかし、サルトルを引用するまでもなく、自分とは違う個性を心の中に内在させることは人間にとってものすごいストレスとなってしばしば問題となる。それを回避するために、本人には劇を演じるための虚像と普通の人間としての実像をバランスさせてるためには必要な作業だったのかもしれない。

 つまり、彼女が存命であった当時から「美空ひばり」は一つのコンテンツであって、人生歌謡ショーを引き立たせるための役であったと考えていいのではないかと思う。

 

 さて、このコンテンツ美空ひばりは彼女の死後も商標として継承されて様々な用途に使われる。CDやカラオケなどを利用した音楽ビジネス、彼女の半生と追悼を企図した記念館や記念碑と言った資産管理パチンコ台や映像などのその他著作権事業など多岐にわたり、昭和~平成にかけてあまたいたスターたちと比べても長く愛される存在だったことがわかる。

 

 しかし、そのコンテンツ性も時代の変化や客層の高齢化(メインは80代女性)と共に徐々に縮小し、「昔こんな人がいたらしい」と言う具合に我々の記憶からもゆっくりと風化する。そういった中で、AIMの登場は美空ひばりの人生ストーリーを全く無視しており、ファンにショックを与えるものだし、商品を広告するという意味で一時的に集客できるだろうが、そのコンテンツイメージを強く毀損したので、マネタイズの中心となる既存客へのビジネスとしては完全な失敗だったのではないかと思う。

www.itmedia.co.jp

 

日本語と歌と美空ひばり

 ファンのおばあさん達に美空ひばりの歌声について聞くと、「ずっと聞いていられる」「流れる音楽」と言うのが多い答えだった。曲調は様々あるので、彼女自身の歌声や声質には秘密があるらしい。

 素人の自分がどうこう言うのも間抜けだが、代表曲を10曲ほど流して聞いてみると少し特徴が分かってきた。

 一つは途切れない「音の波」ではないかと思う。いつ息継ぎしてるんだろうと思うくらいずっと息を吐き続ける音なのである。え?と思って意識的に聞き直しても4分くらいの歌でも1回くらいしかスッと息を吸う音が聞こえなかった。そのくらい綺麗な波であり、聞いていて心地よかった。

 もう一つは濁音が極めて少ない点だと思う。「ゼッ」とか「ゾッ」みたいな一旦音を切る様な音がほとんどなくて、「~です」や「どうぞ。」みたいな文章を切る言葉も歌詞中になかった。もちろん歌詞中には濁音を出す単語もあるが、それも謡い方で音を変えている。例えば「りんご」を「りんこぅぉ」みたいに意味は分かるけど音を変えている。

 もちろん、演歌、歌謡曲を謡う歌手の方々には同じような傾向があるが、美空ひばりの場合はそういった方と比べても音の継続性がとても高いと素人であってもはっきりわかった。この歌声にオーケストラやバントチームの楽器音が合わさると、むしろ楽器の方ががしゃがしゃとうるさく聞こえるのだから面白い。

 

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(あくまで主観的なイメージ: 国によって音が違う)

 

 母国語が違うと同じ英語をしゃべっていても音自体が違って聴こえ、意識しないと理解できない時がある。美空ひばりの音はゆったりしたフランス語や北京語っぽいし、しっかりと日本語の意味が聴こえる不思議な響きだと思う。途切れる日本語の要素を上手く隠して様々な音を作り、その状態で歌詞をはっきり伝えられるのは純粋にすごいと思う。

 

 そこでAIMを考えると、歌と楽器とデジタルの融合と言えばみんな大好き?初音ミクさんが浮かぶ。ミクさんの特徴としては音を一つ一つ組み合わせており、上の図の日本語にようにぷつぷつと途切れた音になる。自分は初音ミクを一時期結構聞いていたので、こういった途切れ途切れの音も好きだが、美空ひばりの途切れない歌声を聞くと全く別のものだなぁと強く感じる。


livetune feat. 初音ミク 『Tell Your World』Music Video

 

 紅白歌合戦でのAIMは、このミク感がどことなく漂っており、繊細でよく調律された歌声なんだけれど、どうしてもぷつぷつとした違和感が見え隠れした。また、美空ひばり本人と比べると音階が平たく、音楽として聴くと初音ミクの有名P以下だと思う。


[NHKスペシャル] AIでよみがえる美空ひばり | 新曲 あれから | NHK

 

 美空ひばりとその歌唱チームがおそらく志向していた「音の途切れない楽器」と初音ミクが作りだす「途切れた音を繋ぎ合わせて作る楽器」はそれぞれ音楽の質は異なるものだし、AIMは初音ミクに高度化したものとして、テクニック的にそれぞれの音を模倣できてもうまく美空ひばりに変わることができなかったんじゃないかと思った。

 

AIと映像と美空ひばり

 NHKの歌合戦放映後の話題は、故人に対する道徳や倫理と言った曖昧模糊としたものが多かったが、その議論の根元には画像・映像の質にあるんじゃないかと思う。人によって見ているものが違うから疑問点は違うが、自分なりに書いてみる。

 一つは画素数が荒いという点である。おそらく製作者はかなりデカいモニターでAIMを作っているのかもしれないが、実際のNHKホールに運び込んだ特注の液晶板で画像を表示したものを見ると明らかに肌がガサガサしており、動きがカクカクしている。

 テレビやスマフォで出力するなら高画質なんだろうが、舞台に上げてショーに使うには役不足で、背景に一体感があるPS4のゲームをやっていた方が綺麗だったんじゃないかと思う。

 もう一点は止めた絵と動かした映像を意識していない点である。モデリングは良くても動作が雑なリアル系3D作品で酷評される点をそのまま踏襲している点と言っていい。


Behind the Scenes: Dali Lives

 

 サルバドール・ダリ美術館でも同じように故人をAI映像作品にしているが、同じような画素数であっても人間らしさが全く違う。よく見ると分かるが、こちらは表情の動きや姿勢などの変化が柔らかい。

 AIMでは細部の動きにこだわったような記事もあるが、AIダリと比較すると、う~んと思ってしまう。AIMではテクスチャの多くを衣装でごまかし、ポージングや振り付けはいいとしても、動きの前に一拍置くとか、ふと緩む表情などの人間らしい動作がとてもぎこちないので、全体的にとても固い印象を得た。現物の美空ひばりと比較するまでもなく明らかにおかしい。

 

 おそらく作っている側もこういった齟齬はリハーサル・編集段階で分かっているようで、実際の舞台をあまり見せずに周辺を見せてごまかしたり、ライティングでAIMの微妙な動きをカバーしていたが、むしろその作業が荒になって気持ち悪い宗教勧誘ビデオのようになったのではないかと思う。

 日本アニメ的なボーン(可動部と支点)を出来るだけ減らして、動きをデフォルメするMMDのような独特の動きもあれば、アメリカハリウッド的な莫大なボーンや細密な3Dモーフを前提として動きをトレースするモーションキャプチャーがある中で、AIMの動画は中途半端だと感じた。

 そういった意味で、旧来の美空ひばりファンには「怖い」と言った印象やその機微に起因した否定論が出て来たのではないだろうか。

 

終わりに

 大スター美空ひばりを屋号にした割にはAIMの出来は悪い。その辺の塩梅がわからないと、金儲けにはつながらないんじゃないかな(-_-メ)

 ネクロマンサーとか故人の冒涜と言った批判はいいものを作れば消えてしまうから、純粋に作り込み不足や広告の失敗だと思う。評価をひっくり返すなら作り手のこれからの努力次第なんだろうな(^ω^)

 

 

 

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