疲れたのでAmazonで映画を見ることにした。評価は低いが意外と面白いかもと思ったので、その理由を書いてみる。
疲れが限界を超え創作する気もなえているので気分転換に映画を見た。どうせならくそ映画を見ようということで、候補として今レビューのサマリタンと仮面ライダーブラックが候補に挙がった。
仮面ライダーはくそを通り越して作っちゃダメ系みたいだったので、サマリタンを選択した。やっぱり南光太郎は倉田てつをだよね…
※この記事はネタバレを含んでいます※
あらすじ
シルベスター・スタローンが主演する全年齢対象のアクション映画である。物語の大枠は正義のヒーローが悪の信奉者をやっつけて、実はそのヒーローは昔悪のヒーローだったというもの。
話の流れを書いてみる。
突然変異で無敵に近い肉体を手に入れた双子の男の子がその力ゆえに迫害され親を殺された。その衝撃によって一人は正義のヒーロー「サマリタン」、もう一人は悪のヒーロー「ネメシス」になった。
彼らはお互い争うようになり、ある日激しい戦いによって二人とも行方不明になった。この映画はそこから数十年たったころの話。
貧民街に住む少年サムは行方不明のサマリタンの大ファンだ。しかし、とても貧しいため物を盗んだり嘘をついたり日々悪いことをしている。そんな生活の中でサムは近所の老いた男をサマリタンではないかと疑う。
その老人と仲良くなり、ギャングとの喧嘩や不意打ちを経てついに彼こそサマリタンだと気づく。しかし、その男は隠れるように生活をし全くヒーローらしくない。
また、ギャングのボス的な男に仲間をかばう姿を見られ気に入られる。ボスは孤児で苦しい人生の中で徐々に仲間を集めたネメシスの信奉者であった。サムはボスに好意を抱きながら彼の生き方に恐怖する。ネメシスの遺物の大きいトンカチを手に入れ、ついに革命計画を開始する。
ボスはこの苦しい世界を変えるために一度町を破壊して作り直そうと考える。そこで特殊爆誕を調達し発電所を破壊し、暴動を起こして一からやり直すのだそうだ。
この試みの中で老人が襲われ、子供を救う姿を市民に目撃される。「サマリタンが生きている」とみんなが知ることになる。この知らせを聞いたボスは仲間を連れて老人の家を襲うが留守だったので、友達のサムを誘拐して老人のおとりとした。
サムを救うために老人は罠と知りつつ正面からボスの元へ向かう。たくさんの敵を前に全くひるむことなくボスの元に向かうが、その中で老人は告白をする。「オレは悪だ！」と告白する。
そう、老人はサマリタンではなく改心したネメシスだったのだ。その真実を知ったボスは激しく混乱して逃げ出すが、その中で彼の家族と言っていい女は死に仲間は次々を吹き飛ばされてゆく。
追い込まれはボスは老人と戦いネメシスになり替わろうとするが、トンカチをひん曲げられて猛火の穴の中に投げ落とされる。
町は停電し破壊されるが、正義のヒーローサマリタンがいるという心の支えを得ることで街の人たちは希望を得て正気を取り戻し、老人は去ってゆく…
…という感じのヒーローもの
映画的評価
映画的評価は芳しくない。自分なりにその評価を各論に分けて書いてみようと思う。
ストーリー
あらすじで書いたように話の内容はとても分かりやすい。全年齢対象のアクション映画なので下手にこねるよりもこのくらいのほうが見やすいのではないかと思った。
しかし、そのつなぎの設定や各所の詰めがあまりにも雑で矛盾が多い。例えば、無敵のはずのサマリタンが何で死ぬの？トンカチしか彼らを倒す術がないという設定なのに、サマリタンは高いとこから落ちて死んでいる。物語全体がトンカチというネメシスの象徴として存在するのにその意味がなくなっている。
こういった設定の齟齬やパートパートの話が繋がらないため、一度「？」と思うと、次々と「？？？」「？？？？？？」となってしまうのでせっかくシンプルなストーリーにしているのに、映画全体が難解になっている。
映像
シルベスター・スタローンは小柄な男である。しかし、今作の老人は大柄で筋肉もりもりのアクションマンである。この矛盾を埋めるために全編にわたって表現でかなり無理をしている。
CGで筋肉をかさ増ししたり、会話シーンで遠近法を多用して、戦闘シーンでは別の役者にスタローンの顔を当てはめているんじゃないかと感じた。
また、ヒーローが別にビームを打ったり必殺技を出さないのでとにかくアクションが地味で迫力がない。むしろスタローンの顔芸のほうが印象に残り、CGで加工したとしてもやっぱり一流役者なんだなぁと感じた。
CGが各所で使われているのに実写とほとんど違いがないようにうまくエフェクトを使うことでCGっぽさをかなり消しているのはすごいと思った。若いころのシルベスター・スタローンCGは「おぉ」というかんじである。
裏読み
単純なはずの物語はなんだか複雑に感じる。単純にアクション映画としてみるとかなり荒のある作品だが、いくつかの点で裏テーマが見え隠れしたのは面白かった。それを考察してみる。
アメリカの状態
ただいまアメリカは非常に不安定になっている。おそらくSNSの電波芸とテレビの極端な左傾化が悪いんだろうけど、場所場所で事実が違う。例えば、ツイッターを追い出されたトランプと仲間達は今回の中間選挙で大勝すると信じていたが、実際は大負けである。一方で、テレビではトランプの負けを大声で唱えるが、彼らが支持する候補も勝っていない。多くの人が一歩引いて冷たく彼らを見ているのだ。
自分の近くとその外では見え方が全く異なり、多くの人が近くの事象しか見ようとしない。そのため、統一した考え方がなく、ものの見方が一致しない。よく言えば多様性であるが、その多様な思考が柵で囲われて超えてこないのである。分断だ。
映画「サマリタン」でもこれが悪さをしていて、おそらく存在していただろう主張がごっそり抜かれている。本来は貧困と富、正義と悪、過去と未来みたいな対照となる存在があり、その差を見せつけることで話に深みを出すように作られているのに意図的にそれらが抜かれて分断を作らないように「配慮」している。
設定として政治的主張が内在されている作品なのに、多くの人にすんなりと見せるためにフックとなる主張を隠している。見え隠れしているのに最後までそれが出てこないのはなんだかへんてこりんに感じた。
一方で映像に関しても、全年齢を意識しすぎているためほとんど人の死の瞬間を伏せている。すごい力で敵が吹き飛ぶのにぐちゃっとなったりべきっとなったりしない。ふわっと倒れるのである。はっきりとした死が描かれるのがボスの家族の女の串刺シーンだけで、直接的に血を滴らせるシーンがほぼない。
そのため、非常に迫力のあるシーンが多くあるのに現実味がなく変な映像になっている。ものすごい力でたたけば壁は砕けるが、人は砕けない。爆発してコンクリートは吹き飛ぶけど人は転がるだけみたいな感じだ。
特に子供に関しては異常で、子供が殴られようとするシーンはたくさんあるのに、それによって子供が怪我をすることがない。人前で建前しか言えないアメリカの状態を表しているように見える。
おそらくだがいつものごとくカルフォルニア州の厳しい映像規制をクリアして全年齢で発表するためにがこうせざるを得ないのだろう。
つまり、物語にしろ映像にしろ見せたいものを途中まで表現してその結果をぼやかすのでモヤっとしたものになっているのではないかと思う。
苦労しているのを感じるのは面白いが、純粋に映画としては評価が低いのはしょうがないだろう。
二人の子供
この物語は正義の物語である。悪を成しても改心すれば隠れた正義のヒーローになれる。…と、老人の視点から見るとそんな感じの作りだ。しかし、ネメシスのふりをするボスの視点から見ると地獄のような話になる。
ボスは小さいころから貧乏で親がおらず、生きるためにギャングになる。ネメシスを信じ街を変えようとしたら、当のネメシス本人に家族を殺され自分もなぶり殺しにされる。絶対の悪ではないボスに改心するチャンスも与えられない。
悪のヒーローを信じたボスには身もふたのない話だ。
一方で、善のヒーローを信じたサムは最後まで救われ続ける。片親といえど親がおり、悪さをしても助けてもらえる。友達を救い危機に陥るとヒーローが助けてくれる。最後にはどうやっても死ぬ状態でも無傷で生き残る。
悪を信じた子供（ボス）と善を信じた子供（サム）の扱いがあまりにも違う。性悪・性善説ではないが環境が同じでも信じるものを間違えれば、どんなに努力をしても結局救われないという恐ろしい内容だ。
キリスト教的には絶対の悪の存在があるからこそ神の存在が引き立ち、神の教えに人々が向かうことで世の中がよくなるはずである。迷える子羊は懺悔をすれば免罪されるはずなのに、この映画ではその絶対悪が存在せず代理として悪にならざるを得なかったボスをいけにえの子羊にして切り捨てている。
つまり、愚かな信仰を持つ者には救済はなく、何が正しい信仰かは誰も教えてくれない。厳しい話だ。
この考えがいいのか悪いのか知らないが、この救いのない企画を通してしまうのはちょっとやばいなぁと思った。
終わりに
内容がないというわけではないけど、奥歯にものが引っ掛かったような作りなので「う～ん…」という気分になる。人に嫌われないようなモノ作りはわかるけどもう少し言いたいことを言ってもいいんじゃないかなぁなんて感じた（＾ω＾）
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