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1週間に1記事を目標にして、考えたことや描いた絵について書いてます。

大阪都構想の実効性を考察する(その2)

統一地方選も徐々に熱を持ち、都構想などの政策も・・・と思いきや、たいして盛り上がらない選挙戦。そんな中、前回に引き続き都構想を探る。

 

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(今週の一枚)たまにはカッコつけたくなる時もある(pixiv

 

前回は都構想の概要、大阪維新の会の評価、大阪の現状を少し引き気味に項目ごとに追った。今回はちょっと視点を変えて、人と概念から実効性を考えてみる。

 

 

 都構想を人物で見る

制度や組織をその内容で見るのは当然だが、都構想に関してはその内容がコロコロ変わり、それを計りかねるところがある。だから視点を変えてその利害関係者たちをみる。

 

橋下徹氏の存在

 評価の分かれる人であるし、その手法も功罪があるが、自分の見る彼の評価は「後の世で教科書に載る人」である。

 

 確かに、彼の弁護士業自体グレーな点があり、政治手法も強引な点が多い。そのため、調整に不足陥り政治家後半の多くの時間をその打ち消しに浪費していた。しかし、少なくとも「政治家」として巨大組織形成では、彼自身の利益を考えない行動は極めてクリーンであり、敵さえも彼の正面からぶつかる手法には一定の敬意をもって接していたと思う。

 そこから生まれた「挑む者」「本物の改革者」というイメージ戦略は強力だし、それをてこにポピュリスト政治を全開にできた。

 

  通常「政治家」はある「利益集団の神輿」である。政治の変化は組織が動いた跡としての価値しかない場合が極めて多い。一見、個人の剛腕によって動いたように見えても、実際はたまたまそこにいた組織や利権団体の責任者が関わった物ともいえる。例えば、現首相の安倍氏や元東京都知事の石原氏は生まれからそれぞれ組織やたくさんの子分を持ち、それをうまく運用したから結果が出たと言える。

 

橋下氏はそれを個人の力で成し、それこそが大阪都構想の原動力だったのだろう。

 

logmi.jp

損をした人

 大阪湾近傍は非常に特殊な地域である。一つは地域を取りまとめるような強い団体が存在せず、中小団体が乱立している(例、新宗教を含め各種の施設が多い。pdf)。交渉の落としどころがない上、狭い中で権利を取り合っているので常に小さな対立を繰り返している。

www.sankei.com

もう一つは関西特有の問題として権利がぐちゃぐちゃなことである。

osakadeep.info

 例えば、土地と建物の権利を持っている人が別で(登記が異なる)、さらに住んでいる人が違う場合も多く、それが世襲化されたので、さらに仲介者みたいな連中が動き出し区画整理がなかなかできない。

 こういったたくさんの隙間に民族団体や反社のヤカラが入り込んだため、ゴミ水道不動産など現在進行形の問題が多数ある。

 

 このカオスと利権の対立からかじ取りができなくなった状態で、明らかに「ヤカラ」とわかる行為を府・市役所から見直したのは橋下氏の最大の業績だと思う。一部分だったにしても、正面からこれに手を付けたことは役人達としては衝撃だっただろうし、だからこそ協力したのだろう。

 しかし、ヤカラにとってみれば不愉快を通り越して殺意さえ抱く。橋下氏に対して度を超えた攻撃が何度も行われた。役所がその機能を取り戻しつつある一方で、その成果が対立を生み、都構想の大きな壁になってしまったのは皮肉だと思う。

 

publications.asahi.com

 当時を振り返るとこういったバッシングは「異常」の一言だし、例えば上の部落云々に関しては朝日新聞が報道機関としての価値・信用をすべて失った大きな要因と言える。そのくらい奇妙で苛烈だった。

 

 

都構想を支えた人・利用した人

 彼が作った組織は、しかし、一から作ったものではないだろう。例えば、大阪の組織自体旧自民党系の松井一郎氏(2世議員、父親の代から港湾部に強い利権を持つ)や元民主党系の議員、国政では片山虎之助氏(旧自治省系)中山太郎氏(外務省系)など各権を持つ中小団体を軸に橋下氏の人脈から法務・金融関係の人を引っ張る形で人をそろえ、メディア的にやしきたかじん氏が支えとなってそれを接着したのが維新の会の前提だったと思う。

www.asagei.com

 ただ残念なことに、このカイカクを心から支えたり、橋下氏の道を本当に信じた人はたかじん氏だけだったように見える。お父さん的存在のたかじん氏の死後、上記の政治家だけでなく、口だけを出してその人気を利用した辛坊治郎氏(結局選挙に出なかった)や百田尚樹氏(安倍自民党に乗り換える)などの行動を見ると正直言って意外だった。ある意味、みんな「大人」だったのだろう。

www.tokyo-sports.co.jp

 

人でみる構造

 上記をまとめると、たかじん氏と橋下氏がいない維新の会は旧自民党旧民主党の議員と外部から来た金融関係の連合であり、地場に利権を持つ自民党系の対立の構図となる。それに共産党や橋下氏に利権をはがされた民族系のヤカラが乗っかり、創価学会立正佼成会などの票も持つ宗教団体が様子見をしている図が出来上がる。

 残念ながらそこには大阪を…とか、近畿圏を…と言った構想自体の対立は見えず、むしろ自分達が橋下氏を利用して手に入れた利権をどう得るか、というコップの中の争いしか見えない。

  当然、彼らには都構想を実現することはできない。

 

小さな概念で見る

 当初の都構想の理想(実際は借金返済)とは資産の流動性の上昇や市域・府域・広域自治体の効率的な運用が目的だったのに、現状や人を見る限り、市町村合併程度の矮小化されたテーマに見える。しかし、それでも地方行政の改善とは考えられるので、コップの中の概念を考える。

 

謎の報告書

 今の都構想を象徴するのが大阪府大阪市の依頼によって作成された大阪都構想の経済効果における報告書である(嘉悦大学付属経営経済研究所 報告書pdf)。

www.nikkei.com

 この文章によると歳出削減効果や、都構想を遅らせた場合の損失などの金額を具体的に示してあり、その多くを最小二乗法を用いた数式作成による非常に基本的な統計手法で経済の状態を見える化して、都構想の価値を示した…

 

…が、この報告書の出来が非常に悪い。比較データを別のもの(予算と決算を比較)にしたり、近似式を意図的に弄ったり(曲線にするか直線にするかで定義が変わる)、外れ値があるのにR^2が0.99だったりと、めちゃくちゃなのである。

 本当に経済学のPh.D.が書いたのか疑わしいものだった。こんなもので金をとっているのも恥ずかしいし、それを信じる人がいるのも衝撃的だったのだが、一番がっかりしたのは維新の会がこれをもって都構想の価値とした点である。

www.sankei.com

 

もう一度言うが、めちゃくちゃな報告である。

 

報告書で論じるべきことを概念化する

 まぁ御手盛り報告書で煙に巻こうとしていたと、好意的に見たとして、この報告書に大きな問題がある。それは、単位の違う数を比較していることが多い点である。

 

 例えば、走っている自動車を考える。目的地に急ぐ場合、加速して速度を上げたほうがいいか、燃費を見て等速で走った方がいいかと考えられる。この報告書では車の種類について話しているのに2台にした方がいいとか、速度の話をしているのに、突然加速すべきみたいな話をしているのである。

 比べるなら車の台数は1台か2台かで比べ、速度は40km/hか60km/hか、走っている途中なら加速するかどうか、それぞれ分けて考えなければいけないが、それをやっていない。

 

愚痴ってもしょうがないので概念図を描いてみる。

 

 矢印を人、物とお金(自動車)、その流動性を矢印の大きさ(自動車の早さ)としてA→B→C→D…と時間変化するとする。

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 そうすると今の大阪の状況はDで、かつてのCという状況と比べて矢印の数は増えたが、矢印自体の大きさは小さくなり、色の領域が減って経済停滞していると考えられる。

 

 どうやって全体をCのようにカラフルにしようか?

 

 かつて、区分けすることで(A→B)行き場のなかった矢印をその区画にはめ込みうまく矢印が大きくなったのだから(B→C)、新しく区分け(D→E、F)すれば、きっと矢印は大きくなりカラフルになるはずである。と言うのが、報告書(笑)から見る都構想案である。

 

 

維新の穴とまともな論点

 試案にはEにしようかFにしようかと言う分割に関しての効果(分割の比較)が抜けているし、分割することがどうして矢印の大きさが変わるのか理由もない。もしかしたらB→Cの過程は外部の刺激だったかもしれないし、A→Bの何もない状況を区分けしたからこそ効果があったのであって、それを変更しただけでは効果がないかもしれない。実は区分けを変更してよくなる理由がない。

 少なくとも、討論する際は矢印の数について言うのか、大きさについて言いたいのかをしっかり分けないとだめで、その上でカラフルについて考えなければならない。例えば、公務員(矢印)が減れば残された矢印は大きくなるかもしれないが、矢印の数は減るので全体はカラフルでなくなる。この数と大きさから全体の色彩の議論を混ぜると維新の弱点になる。

 歳出削減だけすれば、その上がりの税収は減る。一部は効率化するが、全体の利益は減る。当たり前のことである。

 借金返済なら理解できるが地域経済全体を見ると誤りになる。維新はこの点(矢印の数と大きさとカラフル)についてしっかり分けて話すことができれば、絶対に負けることはないし、意味不明な嘘をつく必要もなくなる。 

 

反対派はどうすればいいか

 劣勢の反対派が間抜けなのは、大阪の中だけで話が完結しているため、選挙の対案が全く出せない点である。

 橋下氏がいた際は利権(矢印)をはがして他に移し替えてある程度成功(全体の効率化)した。区分けをそのままにして、全体の歳出は削減せず、ある区画は活性化したが、他は空洞化した。この事実は維新の言う歳出削減と全体の経済効果の点で大きく矛盾する。

 だから、借金返済による一部の救済なのか全体の経済性の優先なのかを分けて話せば現状の都構想は簡単に破たんする。はっきりと区分けする必要はないと言える。

 

 ただ、それだけでは市民・府民が求める図のD→Cの状態には決してならない。それは選挙民も肌で感じている。維新が運用すればうまくいくのである。

 区分けをそのままにするなら、維新と同じように矢印の場所を変える(福祉や教育の充実)といったことを言っても、全体の矢印の数は増えないのだから、都構想を否定した場合、自分たちの論点も否定することになる。だから、矢印を大阪域からではなく、東京や名古屋から引き抜いてくるといった、外部からの取入れを言う必要がある。

 

 大阪維新は少なくとも万博・IRと言った外部からの融資(新しい矢印)を引き出したし、それを関係ない都構想(区分け)と混ぜて手柄とした。それならば、都構想を攻めつつ、どこからか別の融資を引き出す話をしなくてはならない。

 大阪の中の話だけでは絶対に負けるし、権力をとっても破滅する。国だけでなく他県・他市から人や物を奪う方法を考えるのである。

 

結論

今の小さな都構想なら失敗も成功も成果は小さいだろうし、大きい都構想ならそれを仕切る人と実際に動く人が必要なので、今のままなら動かないだろうという結論になる。

 

 

終わりに

 

 調べ返した実感として、住民選挙に負け、橋下徹氏が引退したと同時に維新の会は解党すべきだったと思う。

 そうすれば、他党は現状を維持すらできないし、惨状を見た住民側から頭を下げてきたかもしれない。混乱を経て、大阪や近畿経済圏は大きく変わったかもしれない。

 

 彼の残した遺産・華々しい戦いの跡でダラダラと博打を繰り返す人達を見ると、ちょっとおセンチな気分になった。

 

 

 

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